第8章 不可逆的欠損
しばらくののち、コーヒーでも飲もうかとキッチンに向かう途中で、鶯丸に出くわす。
彼を見かけて、自然とホッとする自分がいた。
唯一、仕事以外で話しかけてくれるのが鶯丸なのだ。
頻度はそう多くないし、ほかの男士もいる手前、あまり喜びを表に出すのも憚られたが、やっぱり嬉しいものは嬉しい。
「コーヒーか?」
「え? う、うん」
「だいたいいつもこのくらいの時間だから、今日もそうかと思ったんだ」
言われて、確かにこの頃によくコーヒーを取りに行っていることに気づいた。
「俺もこの時間によく茶を飲むからな」
鶯丸は、いつもの薄い微笑を浮かべてそう言った。
この時間どころか、わりといつも飲んでたじゃない、と心の中でくすりとする。
そういえば、自分もよく一緒に飲んだものだった。
今は、より強い眠気覚まし目的で、コーヒーを飲むことが多くなってしまっている。
少し前までは、みんなと一緒に縁側でお茶を飲んだり、お茶請けを取り合ったりしたのに。
「食事はきちんととっているのか?」
ふとして、鶯丸が尋ねてきた。彼の顔は少し曇っている。
「痩せすぎだと思うが」
「え、そう? ……作ってもらってるし、ちゃんと食べてるよ」
嘘ではない。食欲が落ちたので、ゆっくりではあるが完食している。
けれど霊力の消費が激しく、毎日ろくな睡眠がとれていないのだ。
たぶん、無理やり食べて戻してしまうのも、時間の問題に思えた。