第8章 不可逆的欠損
―― “また”だ。
人の気配と、視線を感じた。襖の外に誰かがいる。
この感覚は、毎晩のように訪れた。
大体の場合、人影はただそこにいて、じっとしているだけだった。
話しかけてきたり、姿を現したりするのは稀だ。
複数人だったり、一人だけだったり、人数はまちまちである。
監視されているようで怖いし、どうしてそんなことをするのかわからなかった。
関わりたくないのか、関わりたいのか。相反するような行動をとられて混乱する。
そうしていると、次第に意識を保っていられなくなった。
疲労が目蓋を重く、頭をぼーっとさせていく。
またすぐ目が覚めてしまうだろうけど、断続的であれ寝られるときに寝ておかなければもたない。
「――」
人影がなにかを言った気がした。
けれど私は、ゆっくりと目蓋を閉じた。