第1章 主が消えた夜
「俺はな、明日が来るのが楽しみなんだ」
やわらかで、ごく自然な微笑が三日月の口元に浮かぶ。
永い時を存在してきた彼がそんなことを言うのが、なんだか可笑しかった。
けれど、それは澄んだ夜にぴったりの笑みだった。
「主はきっとそれが不安だったんじゃないか。待ち人の話をよくする鶯丸が」
含みのある言い方をされ、数秒ののち、鶯丸はなるほどと腑に落ちる。
どこをほっつき歩いているかわからない大包平のことを言っているようだ。泥酔主のさっきの叫びもそうか。
要するに、大包平がいなくて鶯丸がさびしい思いをしていないか、などという不安が主にあるらしい。
ねりきりもその励まし(?)の一環だったのだろうか。
そんなことを思いついて、ふっと笑みがもれる。
「俺も、明日が楽しみだ」
たしかに、大包平は兄弟のように大切な存在だ。
しかしだからといって、彼がいないことが、他のなにかの価値を貶めるわけではない。
鶯丸にとって幸福な「おかえり」があるこの本丸は、かけがえなく、居心地のいい居場所であった。
その事実は、誰にも、何にも変えさせることはできない。
そんな考えが伝わったのか、そうでないのか。
三日月は笑みを崩さないまま、「そうか」とだけ言った。