第1章 主が消えた夜
しばらくののち、少し涼もうと縁側へ行った。
囲碁盤はそのままで、端によけただけだ。
長谷部あたりに無慈悲に片づけられそうだが、彼の酔いっぷりを見る限り問題なさそうだった。
「よい夜だな」
背後から声が現れる。
細い月を湛えた瞳が、穏やかに鶯丸を見た。三日月だ。
彼は鶯丸のとなりに腰をおろすと、手にした猪口をゆっくりと口に運んだ。
しばしして、彼がふと口をひらく。
「不思議だと思わないか?」
ひとりごとのような呟きに、なにがだ? と聞き返す。
「今は戦争中なのであろう。だというのに――」
言いながら、三日月は室内の方を振り返る。
本丸の全員が集まっている大部屋は、まだまだ宴会の真っ最中であり、そこかしこから声や音が聞こえてきた。
主は依然として面倒な酔っぱらい姿を呈しており、水を飲ませようとしている燭台切の襟をなぜか掴んで揺さぶっていた。
長谷部は赤みがさした顔で燭台切にくどくどと何かを言っているが、肝心の燭台切に
「あぁ、そうだね、うんうん」
と完璧にスルーされている。
大倶利伽羅は宴会用に主がこしらえた焼きおにぎりを無言でひたすらほおばっており、燭台切はその大倶利伽羅に
「1人2つまでだからね! ほらっ野菜も食べなきゃだめだよ」
などとサラダを取り分けもしているし、多忙を極めていた。
加州は、さきほどまで主や一期のような面倒な酔っぱらいになっていたが、突然大和守が
「あっ沖田くんだ!」
と奇声をあげてカラの一升瓶で素振りを始めそうになり酔いが吹っ飛んだらしい。
「ちょっお前飲みすぎたの!?」
と、それはそれは青い顔で虎徹兄弟とともに止めに入っていた。
粟田口の男士は、かわるがわる一期の相手(あの様子では介護ともいう)をしながらきゃっきゃと遊んでおり、なぜかそこに鶴丸と青江が混ざったりもしている。
「あーっ! また俺大貧民かよっ!」
と絶叫したのは和泉守だ。
国広三兄弟と歌仙、小夜(背後には宗三+江雪)という謎のようで謎でないような面々でトランプをしている。
大富豪の勝利に輝いたのは小夜らしい。
「すごいですよ小夜」
「よくやりましたね」
と兄たちからめちゃくちゃに褒められていた。
そんな、争いもなにもなく、平和に満ちた光景が広がっていた。