第7章 望まれた悪夢
少年の嗚咽に答えることなく、男はその場を離れた。
隣接した部屋に入っていき、扉を閉めて鍵をかける。
部屋に一人残された少年は逃げようともがくが、拘束具に押さえつけられびくともできない。
ガラス越しに少年を、それから準備が整ったモニターを最終確認すると、先ほどの男が操作盤に手をやった。
そして機械を、術式を起動させる。
ぼんやり発光していた術式が、鮮明な光を放ち始めた。
蒼白い光の粒子が立ちのぼり、少年の周囲を満たしていく。
機械は高速で計算を行っているのか、常に数字を吐き続けた。
いつの間にか、少年は静かになっていた。
暴れていた指先は弛緩し、ただ横たわっている。
彼の瞳から、ゆっくりと光が消えていった。
緩慢な何かの死が、少年の四肢を浸していく。
灰色の静寂の中で、無機質な機械の駆動音だけが空気を震わせていた。
やがて、光の粒子が霧散した。
術式はその役目を終え、ただ床に描かれた模様に変わる。
男は解錠し、部屋に入っていった。
機械のモニターや操作盤に触れ、それが正常に作動したことを確認する。
男はどこか満足そうに少年に目をやった。
それからひとりごとのように、そういえば、と口を開いた。
「さっきの話だが、君が望めば叶えるよ」
少年は答えない。
小指ひとつ動かすこともなかった。
ただ規則的な呼吸をくりかえしているだけ。
そこにいたのは、人形だった。
ガラス玉のような瞳からは、情動や温度の全てが失われていた。
いや、感情など、元から持ちあわせていないかったのかもしれない。
何を映すこともなく、視線はぼんやりと虚空をさまよう。
それを目にした男の口の端が、ゆっくりと吊り上がった。
「この約束を、君は覚えていないだろうけどね」