第7章 望まれた悪夢
夢の風景が変わる。
俺は建物の玄関に立っていた。
玄関では、少年がカバンひとつを抱え、靴を履いている最中だった。
その表情は暗く、諦めに煤けている。
そばには先ほどの女性ーー先生が立っていた。
今日が、出発の日なのだ。
――“ここ”を出て戻ってきた家族は、誰もいない。
ほんとうはどこへ連れて行かれるのかなんて、先生も、誰も知らない。
けれど、孤児である少年には、どこにも逃げる場所はない。
外には黒い車が待っていた。運転席には、あの男。
「あっ、ダメよ!」
「__っ!」
名前を呼ばれ、少年が振り返る。
女性の制止を振り切って、少女が少年に飛びついた。
少年はよろけそうになりながら、それを受けとめる。
彼は少女の登場に驚き、それから彼女が大泣きしていることに気づいた。
「ぜったいに、ぜったいに助けるから……っ!」
背中から、そんな嗚咽が聞こえてきた。
きつく抱き締めているせいだろうか、肩に埋もれた声は少しだけくもっている。
「だから、まってて……!」
喉を絞り出して発された懇願に、少年の瞳がぐらぐら揺れだした。
いつしか、その瞳から大粒のしずくが頬を伝い落ちていく。
少女を抱きしめ返す腕は、小さく震えていた。