第7章 望まれた悪夢
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夢をみている。
また、あの田園風景だ。
みどりいろの風が頬とからだをすりぬけていく。
穏やかな日の光が降り注ぐ、平和な景色。なんの過不足もなく、すべてがやわらかく調和していた、幸せな日常。
いつからだったか。そこに亀裂がうまれたのは。
「審神者の適性が認められた」
男の硬質な声が響く。
気がつくと、あの白い、無機質な部屋に俺は立っていた。
室内には男のほかに、30代とみえる女性と、年端もいかない少年がいる。
「彼もラプラス計画の一助となるだろう。今週中に部屋を空けておけ。新たに2名収用予定だ」
「やだ! 審神者になんかなりたくない!」
「数日内に正式な通知が下りる」
男は女性だけを見ながら言った。まるでそこにいないかのように、少年には目もくれない。
女性に話しかける男の声は、終始威圧的だった。
本人にそのつもりはなく、染み付いた無意識の習性なのだろうと、ぼんやり思った。
女性の顔は自分がいる角度からは見えず、なにか言葉を返している様子もなかった。項垂れているようにもみえる。
なおも少年は声を上げるが、男は聞く耳を持つことなく無視に終始した。
たまりかねた少年が部屋を飛び出そうとしたとき、男が動いた。
少年の腕をぐっ、と掴む。
そのとき、はっきりと見えた。
まるで、自分の視界はレンズを通した映像で、勝手にそこだけ拡大し、解像度を上げたかのように。
男の目は生き物ではなく、命のないモノを見ていた。
ぞっとするほど凍てついた視線が、少年にはりついていた。