第7章 望まれた悪夢
言いながら、加州は廊下に出て歩き出した。
外すよう言われたんだろ、そんなふうに止めようと薬研は後を追う。
加州を止めるためか、自らも審神者部屋が気になって歩き出したのか、薬研には自分でもわからない。
審神者部屋のすぐ近くまで来てしまったが、相も変わらず静かだ。
人の話し声はおろか、物音ひとつしない。
大将は鶯丸と二人で、黙って何をしてるんだ?
もしや、場所を変えたのか? そうであってくれ……
そのとき、唐突にふすまが引かれた。
びくっ! と加州と二人で肩を跳ねさせてしまう。
ばつが悪い。これでは、今まで盗み聞きをしていたみたいじゃないか。
顔を出したのは鶯丸だ。
加州は目をしばたき、やにわにわたわたと慌てだす。とりつくろうためか、加州はやけに高い声を発した。
「ううう鶯丸! 話は終わった!?」
「審神者が倒れた」
「そうなんだ! 随分長かっ――……え?」
「え……?」
思わず声が漏れる。それは加州の声とちょうど重なって、なんだか間抜けに響いた。
鶯丸の顔を見る。
飄々とすました、いつもの表情はそこになかった。
彼は焦燥と恐怖に眉を歪ませ、二人に助けを求めていた。
鶯丸を押しのけるように部屋に踏み入る。
一人の男が床に倒れていた。床でそのまま寝てしまったかのように瞳を閉じている。ただその頬は、ひどく血色を失っていた。
見まがうはずもなく、大将その人だった。
「――加州っ! 119だ!」
「うえ……あ、ああっ!」
飛び出したのは怒号だ。呆けていた加州は、はじかれたようにディスプレイに駆け寄る。
119、大将になにかあったときの緊急連絡先だ。
薬研は床に膝をつく。見れば、審神者の胸はしっかり上下をしていた。
呼吸をしている、その事実にこの上なく安堵する。
だがわからない。
時は一刻を争うかもしれない。
「くそっ……どこへも行かせねぇぞ、大将!」