第1章 主が消えた夜
「おーかねひらとわたしのどっちがたいせつなのよおおお!」
主も、その1人だった。
普段の主としての姿は余すところなく崩れ去り、ただ悪絡みをしてくる酔っぱらいと化していた。
初めて見たときは驚いたが、今は見ているのが愉快ですらある。
「煎茶には煎茶の、番茶には番茶のよさがある。比べることに意味はない」
「あああぁぁあ! 鶯丸殿ですな!」
思わぬところから怒号が飛んできた。
後ろから肩をガッと掴んできたのは、一期一振だ。
上気した頬は赤く、一目で酔っぱらいだとわかる。
彼は面倒そうな雰囲気を全身から発しながら、瞳をうるうると潤ませていた。
「この前げーむで夜更かししていた厚と後藤に、げーむをやめて早く寝なさいと言ったんです、なのにげーむに夢中でちっとも聞いてくれないので、げーむと兄のいうこととどちらが大事なんだと聞いたら……聞いたら……!
今とおんなじようなことを言われたんですぞ!! 兄は茶かっ!!!」
「うわぁああんいちごぉぉおおお!」
「あるじぃぃいいいいい!」
ひしっ、と抱きあう2人。
普段の彼、彼女の欠片もない。
そんな光景に、和泉守と陸奥守が放っておくと笑い死んでしまうんじゃないか、という勢いで爆笑している。
この2人もできあがっているらしい。
鶴丸も「ぶはははははは」と爆笑している。
彼は通常通りだ。山姥切が「ブッ」と言って顔を背けた。無言で肩を震わせているあたり、吹き出したようだ。
「すみません僕たちの兄が……」
「連れてくね~!」
すまなそうな弟たちに引き取られていく一期。兄の威厳、遥か彼方に星屑と化す。
たしかに、以前平野に同じようなことを言ったが、兄弟を経由して一期にも伝わったのか。
平野に話を聞くと、結構なレベルで本丸に浸透している文言らしい。知らなかった。
主と一期一振には、明日にでも茶を出してやろう。そうすれば、鶯丸の言っていることが理解できるに違いない。