第6章 初期化された祈り
まだ幼い少女の声だ。
泣きじゃくりながら、嗚咽のなかで必死に叫んでいる。
その声は、聞いたこともなければ、記憶の中の誰にも該当しない。
けれど、それはひどく懐かしくて、駆け寄って慰めたい衝動に駈られる。
同時に、鋭い針で一突きされたような痛みが脳髄を揺らす。
「――ぁ」
次の瞬間、情報の洪水が頭を襲った。
記憶だ。
いくつもの風景が高速で浮かんでは沈んでいく。
膨大なそれは処理しきれない。脳の神経回路が焼き切れてしまいそうな錯覚を覚える。
痛い。こめかみに太い釘を刺され、無遠慮に脳みそをかき回されているようだ。
のどかな田園風景。
淡く、繊細なタッチで描かれた一枚の絵画のよう。
その中をいくつもの人影が駆け回っている。無邪気な子どもたちが追いかけっこをしていた。
人影の顔は、全員が、黒々とした濃い闇に塗りつぶされていた。
田園風景が室内に変わる。
白い、無機質な事務室。二人の人影が話し込んでいる。
ややあって、一人の少年が部屋に入ってくる。人影が少年に話しかける。
しばしして、少年がパッと駆け出そうとした。
その細い腕を、人影が掴む。
“選ばれた”ことを理解し、歪んでいく顔はーー自分の顔だ。
『やだ! 審神者になんかなりたくない!』
『__にいちゃんを殺した奴らと同じになんかなるもんか!!』
『一定の戦績をあげれば、故郷に返してあげよう』
『ぜったいに、ぜったいに助けるから……っ!』