第6章 初期化された祈り
<審神者side>
予想通り、鶯丸が部屋を訪れてきた。
前田と話したことで、彼の中でなんらかの方針でもできたのか。しかし面向きは飄々としていて、やっぱり何を考えているのかわからない。
近侍をしていた加州に外すよう頼むと、ちょっとむっとしては「わかった」と退室していった。
二人きりになって始まった鶯丸の話は、驚くべき内容だった。
鶯丸は、元々別の本丸で顕現され、そこで刀剣男士として戦っていたという。
しかしある朝目が覚めると、審神者が、仲間の刀剣男士たちの顔ぶれが、自らの来歴がーー何もかもが変わっていた。
まるで、元々の本丸など最初からなかったかのように。
最初から“この本丸の鶯丸”だったかのように。
にわかには信じられない話だった。けれど、淡々と話す鶯丸が、嘘をついているようにも見えなかった。
それに、もし鶯丸の話が真実なら、合点のいくことがある。
ひとつは練度だ。
ディスプレイに表示される鶯丸のステータスより、どう考えても強いと感じるときがあった。
あの特別演練のときもそうだし、日々の手合わせもそうだ。
鶯丸と手合わせすると、みな口々に「レア4ってあんなに強いの!?」とややキレ気味に聞いてくる。
この本丸最高練度を誇る初期刀の加州に至っては、尋常じゃない延長戦とその後の自主練を繰り広げたらしい。まったく頑張り屋さんである。
とはいえ不可解なことに、鶯丸自身が言うような90台の強さでもないのだ。
また、鶯丸は主に関する記憶について、前田と比べて忘れている部分があると言った。
初鍛刀である前田は、自分と比べて主との縁がより強い。ゆえに、主に関する記憶も多く残っている。
そんなふうに鶯丸は推測しているらしかった。
その話を聞くと、ある疑問と困惑がわいた。
鶯丸の話は、誰かが彼の主に関する記憶を消したことが前提になっていたからだ。