第6章 初期化された祈り
がしゃん
甲高い破壊音が、反射的に肩をびくりとさせる。
音の発生源は、審神者の手元だった。
手にしていたはずの湯のみが、今は床でばらばらに砕け散っている。
見れば、彼の顔はひどく青ざめ、その目は見開かれていた。
なにか信じがたいものを目撃してしまったかのような顔だ。
その青ざめ具合は、中庭に検非違使でもでたくらいだろうか。
もう何度目かわからないが、鶯丸は、話があると審神者部屋を訪れたところだった。
目的は協力を仰ぐため。そのためには、彼に黙っていたことを話す必要があると判断した。
また、話し中結界を張っていていいか尋ねると、審神者は了承した。
少し戸惑ったようにも見えたが、鶯丸になにか考えがあるのだろうと慮ってくれたようだ。
話をする以上、巻き込んでしまうことになる。
もしかしたら、審神者だけでなく、その刀剣たちにも助力を乞うことになるかもしれない。
だが、どのタイミングで巻き込むかは最低限コントロールしたい。
優しい彼らは、きっと喜んで巻き込まれてくれてしまうだろうから。
当初、彼は真剣そのもので話を聞いていた。
鶯丸が嘘をついているかもしれない、そんな疑いはこれっぽっちも持ち合わせていないようだった。
素直すぎるその反応に、逆に心配になったほどだ。
そして話が半分以上終わったところで、突如、審神者の手から湯のみが落ちたのだった。