第6章 初期化された祈り
とは言え、前田の持つ木箱にどんな意味があるのか、ピンときていなかった。
主に関係することだろうが、鶯丸に覚えはない。
前田の姿は痛ましいが、同じ記憶を共有するはずの仲間に、いまいち共感しきれないでいた。
そんな鶯丸の様子を目にした前田の瞳に、さっと陰がよぎる。
陰は、恐れと、戸惑いの色をまとっていた。
前田がどうしてそんな目をするのかわからなかったが、その唇からは、ゆっくりと言葉が転がり落ちる。
「覚えて、ないんですか?」
信じられないものを見るような目で、前田は鶯丸に言った。
その言葉の意味が、すぐには理解できなかった。
覚えてないか、だって?
そんなこと、ここ数日間で俺が何回思ったことだろう。
すがるような響きをもった前田の言葉が、続けて投げられる。
「あの夜、主君と私と五虎退で作ったねりきりを、鶯丸さんも召し上がったじゃないですか」
『ふふっ』
『また作るから遠慮なく食べてね!』