第6章 初期化された祈り
しばしして、唐突にその瞳から透明な玉がぽとりと落ちる。
呆とした表情が、ハの字になっていく眉で泣き顔に変容していく。
「……ありゃ」
彼女はしまった、とでもいうように自らの後頭部に手をやった。
「ごめん、なにか気に障ったかしら」
「ち、違います! 違うんです、謝られるようなことなどなにも――」
勢いよく前田は否定した。ぶんぶんと両手を振り、全身で否定を主張する。
彼女はややあって、ゆっくりとその手をあげた。
そしてそのまま、壊れ物にふれるような手つきで、優しく前田の頭を撫でる。
「……私に関することで前田が気に病むことなんて、なんにもないんだよ」
ひどく優しい声が、前田にふりそそいだ。
前田はこうべを垂れ、その小さな肩を震わせている。
まるで、木箱を主の形見であるかのように、その胸に抱きしめていた。
本丸にいたときですら、前田がこんなふうに泣くのは見たことがなかった。
ごくまれに、わんわんと泣き散らかしているのを見たことがある。
だが、こんな耐えきれなくなったように、見ているだけで胸がつらくなるような泣き方は、鶯丸の知る限りはなかった。
そもそも、あどけない幼子のような見かけをしていても、その実は数多の死線をくぐり抜けてきた刀剣だ。
その彼が――。