第3章 特別演練
無意識のうちに鶯丸はガッと一期一振の肩を掴み、彼に視線を合わせる。
「その言葉、どこで……?」
「えっ? あ……あぁ、前田が言っていたフレーズなのです。それぞれに良さがあるのだから、比べるのではなくて、それぞれの良さをみとめようという――」
急に肩を掴まれて驚く一期一振。目をぱちくりさせ、戸惑ったように言葉を続けた。
最初は茶の種類のことをさして言っていたのですが、と一期一振は純粋な微笑みを前田に向ける。
『煎茶には煎茶の、番茶には番茶のよさがある。比べることに意味はない』
「汎用性が高くて、この言葉はちょっとしたブームなんです」
平野もそう言うと、ね、と前田に笑いかけた。
それで二人も気づいたのか、一期一振と平野の表情が曇る。
「前田、おかしなことを聞くが……」
うつむきがちだった前田が、ゆっくりと視線を上げた。
目が合う。
陰鬱な暗がりが、瞳の奥にゆれている。
感じる。
暗がりの根源にある、消えかけの、けれど確かな“それ”を。
そしてやっと理解した。
さっきの”懐かしさ”はこれだったのだ。
だから彼は、目があったときあんな顔をしたのだろう。
もし彼も、鶯丸と”同じ”であるならば。
「そのフレーズは俺が最初に言った。覚えているか?」
「……!」