第1章 主が消えた夜
「そうだ、宴会しよう!」
「突然だな」
「なんだかんだ忙しくて周年のお祝いしてなかったでしょ? そうと決まれば厨房メンバーを招集しなくちゃ!」
鶯丸に向かってにっこり笑んだと思ったら、主はもう駆け出していた。
厨房メンバーを集めだすらしい。全くせわしない主だと苦笑しつつ、短刀とともに走る彼女の背中を見送る。
その姿が見えなくなったあとで、彼女たちが残した菓子皿に目を落とした。
なんと、桜をかたどったねりきりが1つ消えていた。
まさかと三日月を見ると、大層幸せそうな顔で、なにかをほおばっている真っ最中である。
「早いぞ三日月、いつ食べたのかわからなかった」
「ははは、甘味はよいものだな」
鶯丸をまるで無視するかのような返答。
フっと息をついて、鶯丸も1つ手に取った。
菓子皿に鎮座している、まるっこい鶯だ。
尾の方からぱく、と口に入れると、歯は餡をさくりと噛んだ。
やわらかく、優しい甘さが口の中に広がっていく。
男士として顕現されてから、食事というものが楽しみになった。
中でも甘味は格別だ。たまにこうして主が甘味をこしらえてくれるが、料理同様、多種多様で毎回新鮮な喜びを味わえる。
今回の甘味は、今飲んでいる苦めの緑茶にとても合う。
今からもっと苦いお茶を淹れて一緒に飲みたいくらいだ。
しかし、これより渋みが強いお茶といえば主のお気に入りの茶葉か……などと考えているうちに、鶯を食べ終えてしまっていた。
「これは明日も作ってもらわねばならないな」
「そうだなぁ」
明日は三日月の動向にも気をつけよう。知らぬ間に皿が空になってしまうかもしれない。