第3章 特別演練
「――っぷはぁーっ!」
いつの間に息を止めていたのか、厚が息を吐きだした。
息を止める必要はないぞ、と言ったが、そんなことわかってる、と若干怒られてしまった。
視界のすみで白い布が大きく息をついていたが、彼も止めていたのだろうか。
鶯丸たちの本体は本丸にあり、霊体だけが仮想空間に送られている。
そのため演練でけがを負ったり、刀装を損傷することはない。
心配性と思われる審神者が唯一、少しだけ安心できる戦闘であろう。
なお審神者は本丸の審神者執務室より、電子媒体で仮想空間と接続しているらしい。
仮想空間には、すでに対戦相手が控えていた。
石切丸を隊長として、一期一振、鶴丸国永、蜂須賀虎徹、平野藤四郎、前田藤四郎。
なんだか上品(?)な面々である。
練度がそれほど高くなく、新人にとっては入手難易度の高めな刀剣がいるあたり、相手の審神者も"絵馬"を使ったのだろうか。
そんなことを考えていると、ふと前田と目が合った。
「あっ」
と前田が声を漏らした気がしたが、声が聞こえる距離ではない。
半開きの口に、虚を突かれたような表情。
彼の演練のメンバーから察するに、“鶯丸”はそこまで珍しい刀剣ではないはずだが。
「お、おおだち……」
「主、練度を考えたら十分勝負になるよ」
と、会話が耳になだれこんでくる。
鶯丸たちにだけ聞こえる音量で弱音を吐いた審神者に、歌仙が励まし半分、たしなめ半分で声をかけた。
「おおきいねぇ……刀身のことだよ?」などと、励ましなのかおどかしなのかわからないのはにっかり青江だ。
審神者同士が挨拶を交わした。
審判の政府派遣式神が、それでは、とでも言うように両男士に位置につくよう示す。
鶯丸たちは所定の位置を取り、向き合った。仮想戦闘とはいえ、戦闘は戦闘。
刀剣たちの眼光は鋭い。
緊張ゆえのものもあるだろう。
その点、鶯丸にとって演練は"慣れたもの"だ。
全身のどこにも無駄な力が入っていない。
自身でもある柄が、よく手になじんでいることを感じる。