第3章 特別演練
そして特別演練の日がやってきた。
着任、あるいは復帰して間もない本丸の、練度にして30以下の男士が対象だ。
鶯丸の練度ははちょうど半分の15。
食べると謎に練度が上がる金平糖、ならぬ根兵糖の力もあって、なんとか二桁には乗れている。
「皆さん、よろしいですか?」
「あぁ、主。準備はできているよ」
緊張した審神者の呼び掛けに応じたのは、隊長の歌仙だ。
余裕たっぷりな声とたたずまいに、練度90台と言われても違和感がない。
確かに、演練のために選ばれた6人の中では、最も練度が高い。
彼が率いるのは、にっかり青江、山姥切国広、愛染国俊、厚藤四郎。
全員準備ができているようだ。
厚は鶯丸と同じように"絵馬"で最近鍛刀されたらしい。
初めての演練に緊張とわくわくが止まらない、という気持ちを隠そうとしているが、表情から筒抜けだった。
「で、では参ります……っ!」
審神者がそう声を張ると、突如、鶯丸が立っていた床がゆらんとその物質構成を乱した。
本丸の床だったものが、その色彩を目まぐるしく変容させていく。
床だけでなく、壁が、天井が、床に引っ張られるように外貌を変え、灰色をまとっていった。
電子的なノイズが四方八方に張り巡らされていく。
見慣れた、演練空間への転送中の景色だ。
ほとんど灰色一色に染め上げられそうになっていた世界が、しかし、ひとかけらずつ色を取り戻しだした。
小指の先ほどのサイズの壁紙を少しずつ貼っていくように、空間が意味ある景色を成そうとしていた。
その速度は加速度的に増してき、ついには殺風景な荒野を完成させる。
演練のために用意された仮想空間に、鶯丸たちは降り立っていた。