第3章 特別演練
「ナントカっていう、異国の料理なんだって」
小皿には赤っぽい、なんとなく辛そうな液体が少量入っていた。
ナントカ、か。――いや、問題ない。
キムチとかチゲとかそのあたりではないか。
何度か主が振る舞ってくれたことを思い出す。
そういえば、ご飯だけでなく、デザートやおやつといった甘味も作ってもらったものだ。
直近で食べたあの和菓子も、それはそれは美味だった。
それらの名前が、もどかしいことにすぐ出てこない。あれはなんという名前だったか……。
心なしか、小夜の声音は不安そうだ。
けれど表情には期待もあって、きっと小夜はこの料理が好きなのだろうと思った。
鶯丸は小皿を受け取り、その謎の赤い液体をすすった。
途端、肉が溶け込んだような旨味と、ぴりっとした軽い辛さが口の中に広がっていく。スープを飲み込むと、熱の一滴一滴が、摂食中枢にダイレクトに流れ込んでいった。
そして鼻を抜けていく、ほどよい辛みとコクのある余韻。
美味いじゃないか。
「なら、良かった」
声に出ていたらしい。鶯丸のリアクションを確認した小夜の顔が、わずかに嬉しさで綻んだ。
小皿を回収すると、タッタと台所へ戻っていく。
同じく夕御飯当番の宗三に、味見の結果報告をしているところだろう。
戦争のあいまの、平和な光景だった。
昨日までの記憶と、なにもたがわないような。
だからこそ壊すべきでないと、鶯丸は何事もないように振る舞っているのだった。
けれど、ずっとそうしているべきではないとも思っていた。
「腹ごしらえをしてからまた考え……――っ!?」
来た。
後から来た。
舌がヒリヒリ痛い。熱い。辛い。
さてはさっきのナントカか? こんな時差、罠じゃないか。聞いてないぞ。あのまま通してしまったじゃないか。
「ぐっ……」
悶える鶯丸にどうした!? と歌仙が駆け寄ってきて、偶然通りかかった審神者も駆け寄ってきて、ちょっとした騒ぎになってしまったのだった。