第2章 みんなのいない朝
なにかがおかしい。
ゲートで出迎えた彼らを見て、よりはっきりと、そう思った。
一様にびくびくして、目を合わせようとしない。
隊長の獅子王だけが、「戻った」と短く声を発した。
その声にも“恐れ”が滲んでいた。
一期と鳴狐は、鯰尾をかばうように彼の前に立っている。
一期の瞳には、覚悟と、それから“諦め”が宿っていた。
ええと、もしかして、朝の広間のあれがいたずらで、それを怒られるとか思ってる……とか?
気休めが思い浮かんだが、そんなギャグに通じているとはどうにも思えない場面だった。
「お疲れさま。……えっと、鯰尾、手入れするわよ」
「――えっ!?」
「え?」
鶴丸が大喜びしそうな驚き具合で、鯰尾が目を見開く。
その反応が予想外で、これまた鶴丸が喜びそうに驚き返す私。
一瞬なにを言われたのか理解できなかったとでも言うように、
「ていれ、ですか?」
と鯰尾が聞き返してきた。
どこか舌ったらずな、「手入れ」が久しぶりに発声する単語であるような、そんな様子だ。
「うん、軽傷でしょ」
「え、いっ、いいんですか!?」
「いいもなにも、傷は治さないと」
「――あ、ありがとう……ございます……」
ん? 私の話してる言語ってエスペラント語じゃないよね? 日本語だよね? と全員に確認して回りたい衝動に突然駆られる。
手入れをされるとは、露ほども予想していなかった。鯰尾はそんな表情だ。
彼をかばうようにしていた一期も、鳴狐も。
宗三も蜂須賀も。
その全員の前に立ち、なにか悲壮な覚悟を双眸に湛えていた獅子王も。
全員が、同じように"手入れされるとは思ってもいなかった"表情をしていた。
彼らのいつもと違いすぎる反応に困惑しながら、とりあえず手入れ部屋を開ける。
鯰尾を招き入れ、いつものように手入れをはじめた。
軽傷なこともあり、それほど時間はかからなかった。
しかし、手入れの間ぼーっとしたり、ハッとなってビクついたりと、鯰尾は挙動不審であった。
手入れ終了後、鯰尾は逃げるように部屋をあとにした。
部屋の外には一期、鳴狐、骨喰がいた。
鯰尾の手入れ中、ずっと待っていたらしい。
緊張と疑念、それから戸惑い。彼らの目にうつる感情は、そんなものばかりだった。