第2章 みんなのいない朝
「……一期?」
一期の顔が、真っ青なのだ。
蒼白な面持ちで、小さく震えている。
状態を見るが、無傷だし刀装も十分余裕がある。疲労もしていない。
戦闘は勝利に終わり、怪我といえば鯰尾の軽傷くらいだ。
「一期、どうかした? 顔――」
「も、申し訳ありませんっ!」
「えっ?」
「ちっ違う! 隊長の俺が悪いんだ主!」
土下座しそうな勢いの一期を押しのけ、獅子王が叫んだ。
彼は俯きがちになり、普段からは想像もできない表情をしている。
なにかとてつもない恐怖を抱えた瞳で、ディスプレイ越しにこちらに訴えかけていた。
「鯰尾も一期も悪くないんだ! 俺が悪いんだ、隊長なのに、なのに――」
「俺がしくっちゃっただけだよ、だ、だからさ、俺一人が悪いだけなんですよ」
鯰尾がそれを遮る。軽傷を負った左腕をぎり、と掴み、声を震わせていた。
そのそばで、
「傷悪化する、だめ」
と鯰尾の右手をさげさせようとする鳴狐。
蜂須賀と宗三は、そもそも初めから喋ることができなかったかのように、俯いて黙り込んでいた。
その異様ともいえる光景に、やっと思考が追いついてくる。
「ち、ちょっと待って! 誰も悪くないからとにかく帰還よ!」
このまま進軍させるのはまずい。
本能がそう告げていた。
いつぶりかに行う途中帰還の処理をしつつ、「帰還」という単語を聞いて、いっそう瞳に恐怖を浮かべる男士たちを目撃する。
まるでこのあと、凄絶な“罰”でも与えられるとでも思っている目だ。