第14章 ゲームチェンジャーと玻璃の核
視界を広い背中が覆う。見慣れた緑色の髪に、その緑と黒の装束が視界いっぱいに広がる。
触れあう箇所の体温は、なぜか懐かしい。
機械と私の間に飛び込んできたのは、
「鶯丸!」
赤い鎖を断ち切る、見知った太刀だった。
私を庇うように手が伸び、端正な横顔はその双眸に機械を捉えている。
ぶったぎられた鎖は、足元の術式とともにすーっと空気に溶けていった。舌打ちが聞こえる。その主が、今度はクワッと機械に大口を開けさせると、
「ーー敵襲アリ、敵襲アリ」
大音響が夜を震わせた。何もかもが目を覚ますには十分すぎるほどの声が、本丸じゅうに轟きわたる。
「敵ヲ殲滅セヨ」
駄目押しの言葉とともに、ひゅんと空気を切り裂く音がした。その音が私に届く寸前で、金属音に阻まれる。見れば、鶯丸と安定がつばぜり合いをしていた。いつの間に現れた安定の瞳は、明らかに異様な光を宿している。正気じゃない。
そもそも敵襲って、鶯丸は味方じゃないか。
「二人ともやめて!」
「だそうだ、大和守。主の言葉に背くつもりか?」
「お前は敵だ。だから殺す」
短く答え、安定がまた打ち込んでくる。その瞳には尋常でない光が燃えている。鶯丸は重心をずらして地面に衝撃を逃がし、安定の斬撃をすばやく受け流した。構わず安定が首を狙ってくるが、鶯丸はいっそ閑雅ともいえる太刀筋で、ひとつひとつそれを防いでいく。
鶯丸のどの動作をとっても、攻撃的な感情が見つからなかった。安定の爆発的な殺意とあまりに対照的だ。それもそうだろう。ほぼ練度の上限に達している二人なら、刀種の力の差がそのまま表れる。
鶯丸が安定に打ち負ける要素は、どこにもない。
「俺の主を返してもらう」
鶯丸の刀身が閃き、ひときわ風切り音を叫ぶ。音と同じくらいの速さの斬撃を受けきれなかった安定が、肩から血飛沫を上げながら膝をついた。だらりと腕が垂れ下がる。
「……生き残れよ」