第14章 ゲームチェンジャーと玻璃の核
「戦力増強だよ。
本来なら刀解処分されるような刀剣、例えば、ブラック本丸で酷くやられて、堕ちかけてる刀剣男士とかな。そういう彼らの記憶を消し、“主に従い、任務遂行を最優先する”という情報で上書きする。
するとどうだ、審神者に従順な兵器の再生成<リサイクル>だ」
「は……?」
「ところが困ったことに、付喪神である彼らは、記憶や感情を彼らの依り代としている。つまり、記憶をいじるとエラーやバグが発生する。そうした不具合がもとで何人もの被験者がダメになってきたが、あんたはなぜかそれらのデバッグを苦もなくやってのけてしまう。
……人類の希望だよ。
歴史修正主義者との戦争におけるゲームチェンジャーだ」
「なにを……言って……」
「つっても、あんたはこれからそれを忘れるんだがな」
目の前の機械から発せられる言葉が、何一つ理解できない。というより、脳が理解を拒んでいた。
赤い光点がゆっくりと近づいてくる。さっきの術式とは別に、もう一つの術式がその口から吐き出されていた。赤い、禍々しい輝きをまとった、鎖状の紋様だ。蛇のように地面を這い、私の足に絡みついてくる。足首を灼熱の手が掴み、それはずるずるとのたくりながら上へ登り始めた。
「な、なにを――」
「おとなしくしな。抵抗すればするほど痛む」
紋様に締め付けられ、関節が動かせなくなっていた。身動きがとれない。透明なペンで誰かが書いてるかのように、足元の地面に術式が記述されていく。脇腹から胸元、そして鶴丸を抱える腕に紋様が這い上がってきた。帯電しているかと思うほど、紋様に締め付けられた部分がビリビリと痺れてくる。
力が、入らない。
「っ!」
とうとう腕から全ての力を奪われ、鶴丸を落としてしまう。拾い上げようにも、上半身が紋様に固定されて身をかがめることすらできない。
ぎらつく赤い光の鎖が、鎖骨から喉元へ、それから口内へ侵入しようとした、そのとき。
ざん、と、一陣の風が吹いた。