第2章 みんなのいない朝
悪い方に想像がインフレーションしていく。
自分の妄想で卒倒する前に頭をふって、
「あっ、焼きおにぎり持ってくるね!」
と呼びかけた。
ご機嫌を直していただくには、これ以上のものはない。
今までの男士たちから学習していた。
そういえば、初めて焼きおにぎりを披露したときは、奪い合いで軽く戦争になったな、などと思い出す。
しかし、男士たちは無反応だった。
生気がなく、端正であるゆえか、どことなく作り物じみた顔に変化はない。
本当にどうしたのだろうか。やはり盛大なドッキリかなにか?
とにかく持って来ようと、厨房へ行った。保存してある冷蔵庫をひらくが、探してもどこにもない。
いつもなら、また誰かがこっそり食べたわね~! と怒鳴りつけるところだが、今は奇妙な焦燥感に追い立てられていた。
「おっかしいな……確かにここにしまったはずなんだけど」
「あるじさま」
「っ!?」
突然背後から声をかけられ、肩がびくっと跳ねる。
驚いて振り返ると、いつの間にか、背後に今剣が立っていた。
青みを帯びているくらい白い肌に、よく映える瞳の赤。
けれどその赤は、どことなく空虚で、焦点が合っていなかった。
「ぼくたちはしょくじをひつようとしません。それより、しゅつじんやえんせいをして、きょうのにんむをこなしましょう、あるじさま」
「えっ……あっうん……」
一瞬、今剣が言ったことが理解できず、頭が真っ白になる。
なに、それ。
無理矢理セリフを喋らされているみたい、そう思った。
けれど今剣の、無駄な返答はきかないとでもいうような様子に、肯定を返す以外の選択肢がなかった。