第13章 前哨戦
「――っ!」
次の瞬間、背後から腕を引っ張られる。後ろに飛びのかされると同時に、ガッシャーン! と派手な音が上がった。無意識に顔を防ぐように腕が上がる。とっさに目を閉じたため、何が起きたのか全くわからない。
ぎゅっと閉じていた目を恐る恐る開いていくと、構えた腕の隙間で、白い布がはらりと揺れた。
布から見える革靴が、ざり、と破片を踏む。床が、キラキラと細かい光を瞬かせていた。砕け散ったケースの破片だ。
切り口が青白い照明を乱反射し、宝石の絨毯が敷かれているかのようだった。
ケースが、割れたのだ。
しかも、“内側”から。
緩慢な動作で腕を下ろし、目の前の光景を理解しようと視覚が急ぐ。
目の前に現れたのは、山姥切国広だった。
今にも膝をつきそうな、覚束ない足取りで立っている。ふらつく体は重心を定めきれないらしい。
山姥切は、半分夢を見ているような、茫洋とした目をしていた。瞳からは自我を感じられないが、その手には確かに刀が握られている。
一歩ずつ歩いていくが、その足がガクッと力を失って床につきそうになった。慌ててその体を支える。触れた体は、ぞっとするほど冷たかった。
「……鶯丸……」
名前を呼ばれる。
その瞬間、どうしようもない安心感が胸の中に広がっていった。
聞き慣れた声と、彼から伝わる主の霊力が、確かにそこにあったからだ。
「……あぁ、そうだ、山姥切国広。歩けるか?」
「鶯丸さんこっちです!」