第13章 前哨戦
早速打刀の区画はどこかと探そうとして、フラフラと、前田があらぬ方向に歩き出すのを視界の端に捉える。夢遊病患者のような、意志を感じない足取りだ。
吸い寄せられるように、前田は部屋の角の暗がりへ進んでいく。
「あっ、おい! どこ行くんだ!」
呼び止める和泉守の声も、まるで聞こえていないようだ。
和泉守にならい、焦燥にもつれる足で前田を追う。呼び止めてもきっと、前田は止まらない。
そうして彼の足が、唐突に止まった。
部屋の角の、暗がりの前で立ち尽くす。
「……ここです」
ほとんど囁くように、前田が言った。ゆらりと右腕を上げ、暗がりを指さす。
すると、ただ暗がりだったものが、黒いもやのような形状に分裂していく。ゆっくりともやは薄れていき、やがて下り階段が見えてきた。
初めからそこにあったかのようにその口を開けて、さらなる暗がりが待つ階下へと誘っていた。
「んだこりゃあ……」
「認知系に作用する結界です。ここに“ある”と確信しないと認識されない、という術だそうです」
「審神者の話か?」
「事前に教えていただきました。見てください」
前田に言われ、その視線の先を追う。もやが完全に晴れた今、階段を封鎖するようにかかった鎖が姿を現した。鎖は壁に直接打ち込まれている。
「この鎖も結界ですね。この部屋のどこかにある核を破壊しないと、階段を下りられません」
「二重の結界か……いやに厳重だな。下に何が?」
「山姥切さんだと思います。かなりジャミングされてわかりづらくなっていますが、ここにあるよりも……なんというか濃い、主君の霊力を感じます」
悔しいことに、前田が言うほど主の霊力を感じられなかった。
それどころか、この保管室ですら大して感じられない。
初鍛刀の主との結びつきの強さを見せつけられているようで、場違いにも面白くない感情がこみ上げる。