第13章 前哨戦
本当は全速力で走りたかったが、職員や他の政府所属刀剣の目がある手前、そうはいかない。すました顔で、西棟を移動していく。
鶯丸たち3人組が目立たないとは言えなかったが、今のところ誰にも侵入者だと見破られていない。すれ違う職員や刀剣は、鶯丸の胸元の記章をちらと目にしては、すぐにその視線を外していた。
鶯丸達を視界に入れることもなく、せわしなく早歩きですれ違う職員もいた。
いずれにしても、ハンドメイド記章の製作者に感謝である。
そしてやっと、保管室にたどり着いた。
なんの変哲もない扉が出迎える。外から見る限りだが、そこまで広くはなさそうだ。
あたりを見回す。人の気配は感じられなかった。保管室も含め、この階に人がいないことは確認済みだ。
頭の中で、前田の言葉と報告書の文章がぐるぐる渦巻いている。
必ず被験者の死で終わる実験。
“回転不変”と呼ばれる鶯丸。
なぜ前田がそう言うのかわからないのに、どうしようもなく最悪の想像が首をもたげてくる。
鶯丸はかぶりを振って、和泉守に合図を送る。彼は一歩踏み出て、入り口にある電子パネルを操作し始めた。すぐに解錠されたのか、「ピー」と無機質な電子音が鳴る。
無言のまま、和泉守が「入れ」とばかりに手ぶりで促した。口を真一文字に結んで歩き出す前田にならい、鶯丸も歩を進める。
扉を抜けた瞬間、妙な感覚が体をすり抜けた。と同時に、自分の目を疑う。
目の前に広がっていたのは、巨大倉庫とも言うべき光景だった。
部屋の奥の壁も、左右の壁も、遠くてよく見えない。何十メートルどころではない広さだ。
これだけで一つの棟なんじゃないか。そんな、外観に矛盾したデタラメな広さが鶯丸たちを出迎えた。