第13章 前哨戦
頭の中で、“主”が非難がましく尋ねてくる。
「いや、そんなんじゃないさ。助けたなんて言えないことはわかっている」
ベッドに眠る彼女の口許は、当然結ばれたままだ。
鶯丸はベッドサイドの椅子に腰かける。プラスチックが軋む音がした。
通常刀剣は、審神者の霊力を受け取り、ある程度貯蔵しておくタンクのようなものがある。このタンクの底が抜け落ちたり、網目の粗いザル状になったりすると、審神者の霊力がただ通り抜けるだけになってしまう。結果、最低限の霊力すら保持できないことになり、肉体や顕現を維持することができなくなる。
計画の中で発現したこの現象を、人間は“漏出”と言っていた。
“彼女”の霊力を受け取れなくなるということは、“彼女”の霊力を媒介にした術も解けるということだ。あの獅子王の場合は、元の姿に戻る、ということを意味する。
ほとんど折れてしまった、元の姿に。
そんな彼らを、どこか羨ましいと思ってしまった。
消えることを許されたい、なんていう、冗談みたいな願いを抱く自分がいた。
それをどうしても認められなくて、受け入れられなくて、必死に否定を重ねた。認めてしまっては、全てが無駄に、無為になってしまうから。全ての大義が、犠牲が、無意味になってしまうから。
けれど、その感情はいつも視界のどこかにいた。
そしてそこに意識をやればいつも、前見たときよりも大きくなっていた。
『霊力の検査結果に特異な要素はなかった?』
「なかったさ。たまたま今回の刀剣と相性が良かったんじゃないか」
『鶯丸、“たまたま”なんてないんだよ。あるのは原因と結果だ』
「さすが科学者だな」
『もう、からかわないでくれる? とにかく、彼女の検査結果をもう一度精査してみよう!』