第13章 前哨戦
“彼女”を初めて見たのは、次の被験者に関する書類の中でだった。
生い立ちや、審神者としての経歴、霊力の検査結果。どの項目を見ても、なんの変哲もない、平凡な審神者だと思った。
今まで被験者となってきた、数多の人間たちと同じように。
時間の感覚などとうに狂ってしまったが、ここ最近のことだろうか。人間で言えば数年だろうが、計画が難航していることに、政府の人間たちが頭を悩ませているのによく出くわした。
薬の効きが悪い。処理能力が思ったように上がらない。そんな内容だ。
だが、一番の懸念事項は、計画のデータの復元作業が頭打ちになったことだ。
復元可能な部分は全て復元し終えた。これ以上は完全に破壊されていて、復元不可能である――そんな事実をなかなか受け入れられないらしい。今日に至るまで、数々の端末や記録をこねくり回し続けている。
計画の創始者である主が、全てのデータを破壊したはずだった。それをよくここまで復元したものだと、鶯丸は感心すら覚えていた。
何かの感情を認識するにはとうに心が擦り切れていた鶯丸は、現れてはすぐ消える“被験者”に関心を寄せることもなかった。
鶯丸の足下に広がる砂上の楼閣は、復元した断片的なデータをもとに設計され、その外観も内装も、本来のそれとは似ても似つかないものに変えられてしまったから。
“あの日”、主が全てを壊して、殺しまわった日に、全てが終焉を迎えたはずだった。
なのに、かの悪魔を求めた者たちは、無理矢理亡骸を掘り起こした。
これは、残骸を無理矢理積み上げただけのハリボテなのだ。いっそすぐにでも壊すべきものなのだろうが、鶯丸にはその勇気もない。ただ緩慢な崩壊を、ぼんやりと見つめることしかできない。希望を持ち続けることにも、もう疲れてしまった。希望を抱くこと自体が、とても罪深いものでもあったから。
だから、彼女もすぐ自殺か、刀剣に殺されるか、薬や霊力の枯渇で衰弱死するだろうと思った。今までの被験者と同じように。
けれど、違ったのだ。