第12章 侵入作戦
「いつまでやってるんですか」
大きなため息が、張り詰めた空気を震わせた。
声は、和泉守兼定のすぐ後ろから現れた。
見慣れたケープマントが翻る。紺色の帽子に、さらさら揺れる淡い栗色の髪。兄弟揃いの装束には、和泉守兼定のものと同じ記章が光っていた。コツコツと軽い靴音を立てて、影の中から、小柄な少年がゆっくりと歩いてくる。
「大丈夫です鶯丸さん、この方は味方です」
頼もしい声は、前田藤四郎、そのひとだった。
「……え」
「わりぃ、冗談だよ」
若干気まずそうな声とともに、和泉守の切っ先が床を向いた。対峙していた彼は肩をすくめ、抜刀状態を解除する。
微細な光をきらきらと舞わせながら、彼の手元から刀が消えていった。
和泉守の口元には、「安心しろ」と言わんばかりのにっとした笑みが浮かんでいた。
気のせいか、瞳が優しく、いや、やんちゃな明かりを灯したように見える。
「こんなときにそんな冗談やめてください」
「わ、悪かったって!」
ジトっと和泉守を非難がましく見る前田に、和泉守が慌てて謝る。なんだか力関係がうかがい知れるその光景に、しばらく呆気に取られていた。
「本当に申し訳ありません。ひとまずこれを付けさせていただきますね」
「ちょい、こっち向けって」
「え、何――」
和泉守がポケットから光るものを取り出す。それは、二人が身に着けているものと同じ記章だった。政府所属であることを表すものだ。
和泉守は鶯丸の胸元に記章を付けると、
「これでよしっと」
と、満足そうに頷いた。
鶯丸の頭の中が「?」で埋め尽くされていく。