第12章 侵入作戦
何度も“漏出”という単語が出てくるが、文脈に照らしても理解できない。
3日目の記録を読む限り、霊力のことを言っているのだろうが、そんな話は聞いたことがなかった。
手入れの際に、ということは、手入れをしようと審神者が刀剣に注いだ霊力が、刀剣から漏れる? ということだろうか? ピンとこない。
性格と同じように、霊力にも相性の良し悪しがある。ある種の主従契約関係にある審神者と刀剣の霊力は、互いに親和的だ。基本的に反発することはない。ましてや、手入れの霊力が刀剣をすり抜けるようなことなど。
手入れされるときの、自分と主の霊力がゆっくり融け合うような感覚を、鶯丸は思い出していた。
欠損した部分に主の霊力が満ちて、自分の霊力と混ざりあう。そしてそれは、自分でも主でもない、しかし、確かに自分でもあり主でもある、そんな新しい霊力に変わる。
その一連の感覚は、鶯丸にとって心地よいものであった(無論重傷なときは傷の痛みが凌駕するが)。
それを話したときの、「なんか、キモイ」という加州のリアクションや、山姥切と前田が
「主と一番相性がいいのは初期刀のこの俺だ」
「いいえ初鍛刀の僕です」
と“初”マウントを取り合いながら睨み合っていた光景を思い出す。
あの風景の中に、早くまた入りたかった。
けれど読み進めるたびに、なぜか、記憶の中の景色がゆっくり暗がりに侵されていく。
『25日目
……午前1時31分、刀剣六八一が就寝中の被験者の絞殺を図るも未遂。被験者に外傷なし。当該刀剣について追初期化処理を処置。』
『26日目
……刀剣二七七に重篤な乖離が発生。症状は不通(霊性消失:分類イのイ)。特定回収措置を実施。当該刀剣については廃棄処分とした。
刀剣六八一については翌日に復帰予定。……』
『28日目
午前5時16分、“回転不変”より受電。被験者の死亡を確認したとのこと。
即時に全刀剣について顕現解除。被験者を回収。
被験者の死因は服毒による自殺。解剖の結果は別紙のとおり。
被験者の血縁者の照会及び候補者策定については報告書作成を指示。』