第1章 主が消えた夜
耳ざとくゲートの作動音を聞きつけたのか、鶯丸を遮ってぱっと長谷部が駆け出した。
相変わらずよく訓練された忠犬のようだと思いながら、彼のあとを追う。
洗濯物を干す場所からすぐの場所に、ゲートはあった。
設置されたばかりのように新しいそれは、聞き慣れた起動音を立てて帰還してくる者の存在を告げる。
ゲートの入り口が淡く輝き、フッと二人の人物が現れた。
1人は、加州清光。政府への同伴ということから、初期刀だと考えるのが自然だ。
けれど、それは鶯丸にとっておかしなことだった。
彼女の初期刀は、山姥切国広だからだ。
「おかえりをお待ちしておりました、主」
恭しく頭を垂れる長谷部の隣で、鶯丸は棒立ちになっていた。
目の前の光景が信じられず、目を見開く。
停止しかけた思考が全て地面に落ちるのを、かろうじて押さえとどめる。
「わざわざ出迎えてくれてありがとうございます……鶯丸まで」
「主、お荷物を」
「あ、いえ大丈夫で――」
「いーのいーの、ぜーんぶ渡しちゃおうね主」
加州は"審神者"が持っていた荷物をぽいぽいと取って、長谷部に雑に押しつけた。
それから「はやくお土産開けようよ!」とるんるん気分で"審神者"の背を押していく。
"審神者"は加州の勢いに圧されながらも、「わかりました」と嬉しそうに笑っていた。
尋ねるまでもなく、加州が“彼”の初期刀であることを見せつけていた。
ゲートから現れたもう1人は、加州と長谷部が「主」と呼ぶもう1人は、見たこともない男。
状況から、この本丸の審神者であるとしか考えられない、男だった。