第1章 主が消えた夜
永遠に続けそうな勢いでまくしたてる長谷部をふんふんと流しながら、話された内容を頭の中で反芻する。
いくら“主を一日独占券”を獲得して勝利のガッツポーズをキメる長谷部とはいえ、主である彼女をそんなふうに説明するとは思えなかった。
彼女は元気という言葉を体現したような人間だ。
特別頑丈というわけではないが、あれを病弱というなら、辞書で意味を調べたらどうかと言わざるを得ない。
それに、謙虚というよりかは、ねりきりのときのように「すごいでしょ!」と無邪気にアピールしてくる方だ。
鶯丸には、長谷部が全く別の誰かの話をしているようにしか聞こえなかった。
「菊透かしの男士は貴様が最初だからな、戦力としてとても期待されている。新参の顔はすぐできなくなると心しておけ」
どことなく悔しそうな声音で長谷部が言った。
やや伏せられた藤色の瞳、言い終えたあとの口元に滲む感情に気取られ、その内容にすぐ反応できなかった。
さきほど薬研から「昨晩は鶯丸の旦那の歓迎会だっただろ」と言われたことを思い出す。
菊透かし、いわゆるレア4と呼称される男士は、鶯丸が最初の1人だと長谷部は言ったのだろうか。
そんなはずは絶対にない。だって昨日、鶴丸も一期も江雪も、全員宴会で騒いでいたじゃないか。
「長谷部、ほかのレア4の男士は――」
「っ! 主がお戻りだ!」