第12章 侵入作戦
目に焼きつけた地図を思い起こす。保管室はあと少しで到着できるはずだ。
と、鶯丸がいる場所から部屋2つ分離れた扉が、うっすら開いていた。目を凝らすと、ドアノブを握る人の手が見える。
誰かが、出てこようとしている。
「――っ」
足が硬直する。まずい。あたりを見回すが、身を隠す場所はどこにもない。
階段は開きかけの扉のさらに先だ。通りすぎて気づかれないわけがない。反対側は行き止まり。同じ方向に来られたら、袋小路のネズミ同然だ。鶯丸は政府の職員でもなければ、入室許可証がある訪問者でもないのだから。
ドアノブにかけられた手の主が、ゆっくりとその全身を扉の外に出そうとしていた。誰かと話しているらしく、そのスピードはゆっくりである。いや、ただスローモーションに見えているのかもしれない。さながら走馬灯のように。
どうする。どう言い訳する?
ぐるぐるする視界が、ある一点を捉えた。
――右の部屋、入れる?
ほとんど無意識だった。ドアノブに乱暴に手をかけ、中に飛び込む。背中で押すようにそのまま戸を閉め、手で探り当てた錠前を回した。心臓の鼓動が背中を通して、扉さえ拍動させている錯覚を覚える。それで気づかれるのが恐ろしく、戸から飛びのいた。
戦闘でも、これほどまでに緊張と動揺に翻弄されたことはかったと思う。
なぜ、こんなに平静でいられないのか。
自分が見つかれば、協力したあの審神者にもその影響が及ぶ。どんな処分が下るのか、少し想像するだけで恐ろしい。なにせ、彼は“既に”恐ろしい目に遭って本丸に連れてこられているのだ。
そして、自分が見つかれば、当然山姥切国広を救出するのが遅れる。遅れるどころか、間に合わなくなる。それは同時に、主と永遠に会えなくなることを意味する。そんな直感が、鶯丸にあった。
喉がカラカラになっていた。生唾を飲みこみ、今日もう何度目かわからないが耳を澄ませる。足音は近づいてはこず、むしろ遠ざかっていった。一旦の脅威は去ったらしい。
それでも戸から目を離せなかった。離した途端、強引に職員が入ってきて、鶯丸を捕まえる映像が脳内でループ再生される。
落ち着くんだ。
足音は行った。
ここを出るか、留まるか、早く決めないといけない。