第12章 侵入作戦
さっきのロッカーで見落としたか?
もう一度見に行くべきか?
いやもうそんな時間はない。鍵がなければ、計画は大幅な修正を迫られる。今日は引き返すしかなくなる。山姥切国広にそこまでの時間は残されていないかもしれないのに――
と、視覚がかすかな違和感を捕らえた。棚の中に整然と並ぶ書類の一点に、視線を集中させる。
それはなんの変哲もない、厚さ3センチほどの綴りだった。
ただ、表紙と裏表紙の間が妙だ。普通の本なら、本文となる紙が綴じられているだけだが、その密度がおかしいのだ。いくら紙と紙の間の隙間がないとは言え、表面が不自然につるっとしている。
一枚一枚の紙の集まりというよりはむしろ――
考えながら手早くその綴りを手に取る。棚から出して、違和感の正体が明らかになった。
それは箱だったのだ。一見本に見えるが、表紙を開くと紙は詰まっていない。かわりに、厚さに等しい深さを持った、小さな空間が広がっていた。
そしてそこには、「西棟」とプレートがついた、銀色の鍵が眠っていた。
「あった……!」
思わず声に出てしまう。滞っていた全身の血流が流れ出したような、そんな感覚を覚えた。と同時に、バタバタと階段を駆け上がる音が近づいてくる。目と鼻の先の、入口を出てすぐの階段から人の頭が見えだした。