第12章 侵入作戦
「っ!」
棚も閉められないまま、咄嗟に近くにあった大型コピー機の影に飛びこむ。
「ヤバいヤバい忘れた! メール送っとかないと!」
足音の主は、先ほど同僚と階段を降りていった職員だった。
慌ただしくフロアに飛び入り、鶯丸のすぐ目の前を走っていく。手が届きそうなほどの距離に、背中がサッと寒くなる。僅かな音すら立てることが恐ろしく、無意識に呼吸を止めていた。
職員は騒ぎに頭がいっぱいなのか、鶯丸にも、開いたままの棚にも気づいていない様子だった。鶯丸はパソコンにかじりつく彼女の後ろ姿を視界に捉えながら、コピー機から素早く這い出る。
今動かなければ、指一本動かなくなってしまう気がした。
そのまま開けっ放しになっている扉を通り抜け、階段から距離をとるようにすぐ角を曲がった。彼女が階段を降りていってから移動することも考えたが、侵入者の痕跡に気づかないとは限らない。
それに、硬直した体が言うことを聞かなくなることが恐ろしい。
早鐘を打つ心臓を服の上からおさえる。手のひらの鍵の感触を確かめながら、鶯丸は西棟の方へ向かった。