第12章 侵入作戦
審神者の説明を思い出す。
たかだか紙の一枚や二枚でそんな騒ぎになるかと思ったが、心配は杞憂に終わった。長谷部部隊が起こした紛失騒ぎは、陽動の一つとして十分すぎるほどに機能したようだ。人間の社会というものは不思議である。にしても長谷部の発狂ぶりが見たすぎる。
開け放たれたままの扉のすきまから中を覗くと、フロア内はがらんとしていた。五感を研ぎ澄ませ、改めてフロアじゅうを注視する。やはり無人だ。
鶯丸は、そろそろとすきまから部屋に足を踏み入れた。
『総務課はほとんど来客がないので、棚やロッカーは基本開けっ放しにしているらしいです。保管室がある西棟の鍵は、南側窓奥にあるロッカーか、東側入口付近の棚にあるそうです』
審神者が役人や同僚から仕入れてきた情報を思い起こす。
ずいぶんと甘いセキュリティに聞こえるが、そんなものなのだろうか。職員の出勤とともに開錠され、帰るまではそのままらしい。いちいち施錠と開錠をするのは確かに面倒なので、来客が少ないなら理にかなっているのだろうか。
まずは扉から近い南のロッカーを目指す。
それらしいロッカーはすぐに見つかった。鶯丸の身長を超える高さで、威厳ある灰色の外観をしていた。横幅もかなりある。鶯丸が手を回しても、全く両手がくっつかないくらいの大きさだ。しかし分厚い扉は小さく開いており、中の雑然とした様子が垣間見える。
足早にロッカーに向かい、なるべく音を立てないようにロッカーを開いた。手のひらが湿って、金属に触れたらつるっと滑ってしまいそうな錯覚を覚える。
そんなに自覚はないが、自分は緊張しているらしい。
一度周囲を見回してから、ロッカーの中に視線を注ぐ。まず目に飛び込んできたのは、一列に並んだフックだ。
それぞれに鍵がひっかけられている。鍵にはそれぞれネームプレートがついているが、「東棟倉庫」「駐車場」「課長のサブ」などといったラインナップで、目当てのものは見つからなかった。
収納状況はかなり余裕がある。悪く言えば、せっかくのロッカーのサイズを生かせていない。中の小さな棚も探ってみたが、鍵らしきものは見つからなかった。心臓の拍動をやけに感じる。
落ち着け、ちゃんと見たか?
自問して、鶯丸はそれに頷いた。見落としはない。もう一つの東の棚にあるのだろう。冷静に考えるんだ。