第1章 主が消えた夜
遅い朝食を済ませ、鶯丸は本丸を散策することにした。
馬当番のはずだが、すでに他の男士が担当していた。勘違いしていたのだろうか。
主がもうすぐ戻ってくるらしく、それまでは空き時間らしい。
「案内しようか?」
という燭台切の気遣いは、丁重に断った。
どうして燭台切がそんな提案をするのか、鶯丸には不可解だった。
しばらく歩くと、長谷部が洗濯物を干しているのに出くわした。
見慣れない衣服が誰のものか尋ねると、「主のものだ」と当然のように長谷部はこたえた。
どう見ても男物だが、彼女の好みが変わったのだろうか。
「朝食はどうだった」
「美味しかった。野菜のこんそめすーぷ、だったか、初めてだがなかなかの味だ」
「そうだろう、主の好物でもあるからな」
「そうなのか」
彼女の好物を全て把握しているわけではないが、いつの間に追加されていたのか。
「こーんくりーむすーぷ」が好きだという覚えはある。
それにしては聞いたことのない料理だ。好みが変わったのだろうか。
試しに“主”について、長谷部に簡単に紹介してもらった。
「主は本当に謙虚で誠実な方だ! 一方で自己評価が低いきらいもある……それもあってか大変な努力家だが、無理をしがちだ。そこをしっかりと支えていくのが俺たちの責務だと思う。
それにあまり体が丈夫でないようであるし……だというのに上から厳しいノルマを課せられるとも聞く。
俺たちは強くならなければならない、主のためにも、わかるか? あの方は優しすぎる……誰かが少しでも怪我をすると、隠してはいてもつらそうで――」