第9章 楼閣崩壊と彷徨わない亡霊
頬にやわらかな感覚が伝わる。
獅子王が涙を指でぬぐってくれていた。壊れものに触れるような、ごく弱い力だった。
今にもすとんと床に落ちそうなその手に、自らの手を重ねて支える。
獅子王の指先は冷たかった。思っていたよりも手のひらが大きくて、なのにとても弱々しくて。それが悲しくてどうしようもなく涙がこぼれる。
「もういいんだ……」
聞いたこともないようなか細い声で、獅子王が言った。
ひとりごちるような、慰めるような、穏やかな声音だった。
何がいいというのか。何もよくなんてない。
痛くて痛くて、どうしようもなく命を零れ落としていく獅子王の、何がいいというのか。
いやだ、と声にならない嗚咽が自分の口から漏れた。その声は情けなく震えていた。
いやだ、絶対に、絶対に助ける。
「……ありがとな」
優しい声を、一陣の風が薙いだ。
金属と、なにかが小さく壊れた音がした。