第9章 楼閣崩壊と彷徨わない亡霊
びりびりと両腕が痺れる。末端や皮膚表面の感覚はあるが、芯の感覚が薄れだした。霊力を無理に放出しすぎたときの感覚だ。
研修のときにコントロールがうまくいかず、定められた量の何倍もの霊力を発してしまったことがある。あのときも、同じような感覚が腕を覆いつくしていた。その後三日間くらい、私の霊力はまるで使い物にならなくなった。
なんだろうと構わなかった。
獅子王は折らせない。
そのためなら、私が差し出せるものはなんだって差し出してやる――
「ごめんな、主」
そのとき。
世界が一瞬、とても静かに凪いだ。
ずっとずっとうるさく降り続いていた大雨が、一瞬で上がり、なんの音もしなくなったような。
そんな静けさがあたりに満ちていた。
視線が無意識に"それ"合わさせられる。刀身のように、どこから見るかによってその色を変える、獅子王の瞳に。
痛みをこらえているのか、呼吸さえつらいのか、獅子王の表情は苦しげだった。けれど、瞳は穏やかに微笑んでいるように見えた。今は、優しい錫色に見える獅子王の瞳に、しばらく囚われたように動けない。
――どうしてみんな、いなくなる直前に“私の知っている刀剣男士”に戻るの?