第9章 楼閣崩壊と彷徨わない亡霊
視界のはしで揺れ動いたその影を、まず目で追う。
頭と首は、永らく油の差されていない、錆びた金属同士のようだ。ぎこちないまでにゆっくりとしか動かせない。
やっとたどり着いた視線は、一呼吸終わらない内に頭を真っ白にする。
鶯丸が自らの刀身を、髪飾りに突き立てていた。
瞬きする間もなく、髪飾りは真っ二つになった。
「え……?」
力が抜けた瞬間に、私は獅子王の手を取りこぼしていた。
畳に真っ直ぐ手が落ちる。ドサ、と音がして、獅子王の手はそのままぴくりとも動かなくなった。
彼は穏やかな表情を浮かべたまま、しかし瞳は曇り空を映すビー玉のように光がなかった。
かと思えば、微小な光の粒がビー玉の中に現れる。反射しているのだ。
あたりに満ち始めた、光の粒子を。
光源を確認しなくてはいけないのに、私は鶯丸から視線を外すことができない。拘束されたように、指一本すら動かすことができない。
影の隙間から覗く鶯色の瞳は、真っ直ぐに私を見つめていた。