第9章 楼閣崩壊と彷徨わない亡霊
------------------------
「……」
言葉が出なかった。息も忘れていた。目の前の光景に、頭をまともに殴られたような衝撃を覚える。
上半身を血で染めた獅子王が、布団に横たわっていた。
白い敷布団はところどころ赤く汚れている。その上に力なく放られた手足は、獅子王の出血量を暗に示すように青白い。
四肢と同じように、彼の顔も普段と比べ物にならないほど蒼く、生気を失っていた。瞳は薄く閉じられ、苦しそうに眉が歪んでいる。浅い呼吸を絞り出す唇は乾いて、プールでひどく冷えた子どものような紫色を呈していた。
普段結わいている金髪は、今はほどかれて枕元に広がっている。白いふわふわした髪飾りも、同じように転がっていた。水晶の小さな装飾が、虹色の光を反射する。
編みこみ、上手だったな。
そんな場違いな感想が浮かんだ。
何より視線を奪ったのは、脇腹に不格好に巻かれた包帯だった。
もとは汚れ一つない白色だったろうそれは、いっそまだ温かそうな鮮やかな赤を吸って、重たく濡れていた。一目で尋常ではない出血量だとわかる。