第9章 楼閣崩壊と彷徨わない亡霊
視界のはしで、きらきらした粒子がうまれる。
淡く白い光の粒は、次から次へと視界をあふれ、景色を彩っていく。雪の結晶のようで、綺麗だなと思った。
それは、骨喰の体から立ち昇っていた。
「ほね……ばみ……?」
ぱち、と世界に火花が散った。
眩しさに反射的に目をつむる。
次に目を開けたとき、骨喰の姿はどこにもなかった。
わずかな光の残滓が、ちらちらとあたりを漂っていた。やがてそれも完全に消える。
視線を足下に落とすと、一振りの脇差が眠るように床に横たわっていた。美しい刀身が、月の光を受けてうっすら輝いている。
「え……」
なにが起こったのか、すぐには理解できなかった。いや、理解することを脳が拒んでいた。
さっきまで腕の中にあったぬくもりは、今は綺麗さっぱりなくなっていた。
行き場をなくした腕が、夜の静けさの中を惨めにさまよっていた。
視界がぐらぐらと揺れる。なにもかもに現実感がなく、思考をすることがままならない。指先から手のひらへ、それから瞬く間に腕へ胸元へと、震えが全身を這いずり上がっていく。今にも決壊しそうな何かが、腹の底から喉元までせりあがってくる。
パニックに陥りそうになったそのとき、廊下の向こうに鶯丸がいることに気づいた。
「ぁ……あ」
名前を呼ぶこともままならなかった。駆け寄りたいのに、足が動かない。
鶯丸は私をみとめると、音もなく私に歩み寄ってきた。表情は暗くてよくわからない。彼はおもむろに私の手をとると、囁くように言った。
「来てくれ。獅子王の出血が止まらないんだ」