第9章 楼閣崩壊と彷徨わない亡霊
居ても立っても居られず、ほとんど叫ぶように名前を呼ぶ。
骨喰はビクッと体を反応させ、視線を上げた。焦点が私に合う。
深い桔梗色の瞳が、まっすぐに私を見つめる。
その色は、確かに現実を取り戻していた。
かくん、と足の力が抜けたのか骨喰が膝をつく。
前のめりに倒れそうな体を慌てて支えるが、今度はさっきよりももっと軽く感じた。
骨喰の腕は力なく垂れ下がっており、左肘のところが赤く滲んでいた。手入れはとっくの前に終わったはずだし、そもそも今日負傷した箇所は足のはず。なのに、血のような染みができているのはどうしてなのか。
いや、ともかく早く手入れをしなければ――
私の背中で、骨喰が小さく息をついたのが聞こえる。
「あんたは、あたたかいな」
安心したような声で、骨喰が言った。
安堵の吐息は、少しだけ微笑んでいるように聞こえた。
いつものような、ひとつふたつの壁越しの声ではない。遠慮のない、素直な声。
まるでこれが最後だから、そうしたかのような。