第9章 楼閣崩壊と彷徨わない亡霊
低い、力のない苛立ちが滲む声で、骨喰が呟いた。
かきむしるように突き立てられた指が、さらに背中に食い込む。
声色は明確に私を責めるものだったが、私は耳を疑った。
骨喰が何を言っているのかわからなかった。
ゆっくり腕をほどいていき、骨喰の顔を見る。
彼の瞳は、焦点が合っていなかった。濁ったように不透明な瞳は、その視線をぼんやりと虚空に漂わせている。
私のことを見てはいなかった。
”ほかの誰か”を見ていた。
「どうせ捨てるなら、最初から……」
「なんのこと?」
「どうして……俺だけを……」
骨喰がうわごとのように呟く。
私の声はまるで聞こえていないようだった。私ではない誰かを、弱々しく問い詰めていた。
骨喰の腕に添えた自分の手に、違和感を覚える。
希薄なのだ。一日の終わりで疲れ、霊力のほとんどを使い果たしたとは言え、あまりにも骨喰から自分の霊力の気配がしなかった。
こんな感覚は初めてだった。言いようのない不安が急速に鼓動を高めていく。
「どうして俺だけを残したんだ――」
「骨喰!」