第9章 楼閣崩壊と彷徨わない亡霊
「……ほね、ばみ?」
骨喰は答えない。物憂げな、けれどいつもの無表情のまま、ふらふらとその足を踏み出す。
そしてそのまま、体を支える力を失ったように、前方にむかって倒れこんできた。
慌ててそれを抱きとめる。軽い、線の細い感覚が、ふわりと腕のなかに沈みこんできた。
「骨喰……?」
もう一度呼びかけるが、やはり答えは返ってこない。
しばしして、骨喰のだらりと垂れ下がっていた腕が、ゆっくと上がった。その腕は私の背中に回され、力が込められる。抱き締める力は、少し息苦しいほどに強い。
骨喰の手のひらの温かさが、背中から全身へ、じんわりと伝わっていく。
彼がどうしてこんなことをするのかわからなかった。
ただ、骨喰の肩はひどく震えていた。それをどうにかしなきゃという強い感情と、どうしたらいいのかわからない行き場のなさが、衝突して胸の中でぐるぐる渦を巻く。
「どこにも行かないでくれ」
哀願が、渦を巻く胸をぎゅうと締め付けた。
聞いているだけで胸が痛くなるような、悲痛な願い。それが、背中の方から聞こえてきた。ほかの誰でもなく、骨喰の口から零れたものだった。声はかすれて震え、語尾は嗚咽をこらえていた。今にも泣きだしてしまいそうなのを、必死に堪えているような。
「……どこにも、行かないよ」
確かめるように、ぎゅっと抱きしめ返す。
同じ問いに答えたことが、遠く昔のことのように感じられた。あのときは、そう答えるしかなかった。けれど今は、心から思ったことを言えた。
何のフィルターを通すこともなく、ただ湧いてきた感情の源泉を、そのまま溢れさせてしまえた。
「骨喰こそ、どこにも行かないでよ」
私の言葉に、骨喰の肩が小さく跳ねた。
背中に鋭い感覚が突き刺さる。少し痛いくらいの力は、骨喰が指を突き立てたものだった。
「……どうして折らなかったんだ」