第8章 不可逆的欠損
それでは、と挨拶も最低限に担当者は本丸を後にした。
曇りに切り替わった空は、暖かい陽の光を注いではこない。
白い風が、私以外誰もいない庭を吹き抜けていった。
そんなに強くはないはずなのに、なぜか地響きのように鼓膜を震わせる。
見送りを終えたゲートの前で、私はやっと現実感を取り戻していた。
「う……」
頭を抱える手に、指に、じわじわと力が入る。
掻きむしるように指が丸まり、足が体を支えきれなくなって思わずその場にしゃがみこんだ。
頭の中は半狂乱だった。何もかもわけがわからなかった。
今剣が話してくれなくなった理由も、突然甘えるような行動をとってきた理由も、今本丸じゅうのどこを探しても見つからない理由も。
けれど一つだけ、確信じみた強い感情が、狂ったように脳髄を支配していた。
私があのときいいよと言っていたら、何か違っていた?