第8章 不可逆的欠損
布にくるまれた刀身に目を落とす。刃は曇ったように光を反射しなかった。
抵抗があった。私の刀剣なのだ。認めたくないけれど、たぶんあの短刀は、“今剣”なのだ。
それを手元から離し、政府に預けるなんて、すぐには受け入れられなかった。
だが、措置は強制のものだった。しかも、“審神者の手入れ等が及ばないケース”に私は該当する。
これ以上お前にできることはないと、そう言われた気がした。
「わかり……ました」
私がそう返答すると、担当者は荷物から箱を取り出した。
特殊な術式を漂わせる箱だったが、これも見たことがない。
担当者は私から短刀を受けとると、箱の中に入れた。布だけが、私に返された。
「同種の事案がありましたらすぐ報告してください」
「……同種?」
「複数の刀剣に同様の事象がみとめられた本丸があります。もし他の刀剣にも同様のことがありましたら、自ら対処しようとせず、すぐ連絡してください。これが専用回線の番号です」
事務的な口調で担当者は言った。
差し出された書類に目を通すが、頭に入ってこない。
聞き間違えではないことは、耳の中でくり返し残響し続ける言葉でわかった。
他の刀剣にも同じようなことが起こったら、だって?
一振り二振りで済むのか?
もしそれでは済まなかったら?
私はあと、何人失えばいい?