第8章 不可逆的欠損
「う……うぅ……」
後悔が頭の中いっぱいにどろどろと満ち、不快な粘度を増悪させていく。
もし部屋に招き入れていれば、今剣がいつ出ていったかわかったはずだ。
それにセキュリティ面で言えば、審神者部屋は最高クラス。
歴史修正主義者の襲撃に備え、最上級の術式の数々が施されている。
だからなにか攻撃を受けても、簡単にはダメージを負わない。私も、刀剣も。
だいたいあのように改まって訪ねてきたのだ、何か話したいことでもあったんじゃないか?
わざわざ人目を避けるよう、夜を選んできたのだ。
軽い話ではないだろう。
それを私は拒絶した。
無根拠に“怖い”という、ただそれだけで。
「うあ……ああぁ……」
私の羽織を借りていったのはどうして?
暖かい布なら他にもあった。
けれど、私が一番着古しているあの羽織を選んだのは、どうして?
今剣に聞きたくてたまらなかった。
あの夜の部屋を出ていく笑顔が、今は別れを告げるものに思えて仕方がなかったから。
私のせいなの?
私のせいで折れてしまったの?
今剣、今どこにいるの?