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太陽の瞳 【鬼滅の刃】

第69章 私は…



杏「お隣…良いだろうか…。」

「ど、どうぞ…。」


『…………。』




2人の間にぎこちない空気が漂う。
まるで、初めて会った男女の様。



泰葉はきっと酷い状態であろう顔を、おしぼりで隠した。



杏「…泰葉さん。」

「は、はい。」

杏「その、何故顔を隠す?」

「ちょっと…お見せできる様な顔じゃ…ない気がして。」




泰葉と杏寿郎の間には一人分の空間があった。
それを詰める様に杏寿郎が動いてきたのを感じる。
肘が、杏寿郎の腕と思われる部分にトン…と当たると、何故か心臓が煩いくらいに高鳴った。


すると、泰葉の身体全体がふわりと温かくなる。



(え…?え、え、何…?きょ、杏寿郎さん⁉︎)




抱きしめられたのだと気付いたはいいが、ここからどうして良いものか分からなくなってしまった。



「こ、ここ……店先です。」


泰葉の口から出てきたのは、精一杯の照れ隠し。
人通りは多くはない道だが、ちらほらと人は通る。
きっと大胆だな…とチラチラ見られている事だろう。



「杏寿郎さ…」

杏「2週間も…こうしたくても叶わなかったんだ…。
嫌かもしれんが、辛抱してほしい。」


「……嫌だなんて……。」



こうして欲しかったのは泰葉だって同じ。
杏寿郎が病室の前まで来てくれた時、何度その扉を開けて、胸の中に飛び込んでいこうと思った事か。




「辛抱なんかじゃない…。私、杏寿郎さんに酷いことしたのに…これじゃご褒美よ……。」


泰葉がポソッと呟くと、くっと笑う声が聞こえた。



杏「嬉しいことに、褒美か……。」


杏「では……」



杏寿郎は自分から身を離し、泰葉の両手を掴んでクイっと両側に開いた。



「あっ、ちょ……だめっ!!」



杏「俺に酷いことをしたと思ってくれているのだろう?
じゃぁ、見せたくないと言う、その愛らしい顔を見せて欲しい。」




愛らしいなどあるものか。
涙で顔周りの髪の毛は頬にくっ付き、目は腫れぼったく、鼻は真っ赤。
辛うじて鼻水は……何とかなった様だ。





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